長谷部浩ホームページ

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2016年12月4日日曜日

【閑話休題59】日の入らない書庫に、一日中いる

図書館については、いつも考えをめぐらしている。自分自身については、近所の区立図書館と勤務先の大学図書館には、きわめて頻繁に行く。以前、住んでいた場所は、真砂中央図書館が至近だったし、今も巣鴨図書館が5分以内で行ける。図書館については、若い頃からヘビーユーザーだった。中央大学の講師になってからは、無料のコピーカードが、研究用に支給されたので重宝した。日の入らない書庫に、一日中いるのは、苦痛でもなんでもなく、当たり前のことだった。
60近くになってからは、新しいことを調べる機会は半減して、すでに知っていることをもう一度、調べ直すことが多い。それでも、図書館の空気を吸っているだけで、幸福感がある。図書館と共に、生きてきた実感がある。

このごろ、文芸家協会の会報で話題になっているのは、大書店でピラミッドになるようなベストセラーについてである。このようなベストセラーを何十冊か図書館が買って、順繰りにどしどし貸すと、出版社や筆者としては書店やネットでの売り上げが上がらないので、何ヶ月かしてから図書館での大量仕入をしてほしい。即時は止めてくれ。そんなルールを作って欲しいとの意見がある。
ベストセラーの売り上げがあってこそ、出版社は多額の利益が見込めない、あるいは大概、赤字になってしまうような一般書(たとえば私の書く硬い批評を集めたような本)が出せるのだという論理を、あるベストセラー作家が展開していたのには、いささか鼻白んだ。その通りかもしれないが、結局、出版はばくちで、ピラミッドだけがベストセラーの唯一の道ではない。まったく売れないと目されていた本が、意外な結果をもたらしたことも少なからずあるだろうと思う。

学校へ行きたくない、いや、行くことがいやになってしまった子供に対して、鎌倉の図書館が夏休みの終わりに呼びかけをしたのが話題になった。図書館にはさまざまな機能があって、人によって使い方はずいぶん違うと思う。資料の公開と保存、大衆化と専門化はかならずしも合致しないが、人類の長い歴史とともに歩いてきた図書館が、悪い方向にいかないように見詰め続けたいと思う。